子どもたちは、日々の中で予測できない動きをすることがあります。その子どもらしい動きを、微笑ましく見守ることができるときと、時に命を脅かす緊急時につながるときがあります。
こんにちは。元保育士のKanaです。
子どもが緊急事態になり、痛がっていたり苦しんでいたりと、いつもと違う姿を目の当たりにすると、冷静でいられないことが多いと思います。
実際に私も、保育士歴が浅い時は、小さいケガでも慌ててしまうことがありました。ですが、目の前の子どもたちを助けられるのは、自分だけである。と意識を改め、多くの講習に参加することで、知識を深めました。
落ち着いて対応ができるようになるためには、十分な知識を身に付けておくことがなにより重要です。
身に付けた知識を、使わずに過ごせることが望ましいですが・・・
もしもの時のために、目の前で苦しむ子どもたちをあなたが救えるよう、準備をしておきましょう。
では、様々なシチュエーションでの緊急時の対応を紹介していきます。
軽症の場合
すり傷
基本的な処置方法は、きれいな水で洗って汚れを落とすこと。傷口が洗い流せないほど汚れている場合は、消毒液を流しかけてきれいする。
流血を止めようとして、ティッシュや脱脂綿などで拭いてしまうと、かえって傷口を痛める場合があります。流水で傷口を洗い流したあと、ばんそうこうを貼って様子を見るようにしましょう。
出血がある場合は、出血箇所をガーゼなどでしっかり押さえて、心臓より高くあげて固定すると、ほとんどの場合とまります。(圧迫止血)深くえぐれている場合は、医療機関を受診しましょう。
小さなすり傷であっても、適切に対処をしないと悪化する可能性があります。「これくらい大丈夫!」と判断せず、適切に対処してください。
噛みつき
噛みつきの場合、相手の口に中の菌が、傷口から体に入る危険性があります。まずは、流水でしっかり洗い流すこと。流水で流すことで、同時に冷やすこともできます。
流水で流した後は、保冷剤や氷などを使用して最低でも20分は冷やす。
保育園の0.1歳児クラスでは、よくある噛みつき。まだ、気持ちを言葉で伝えることが難しいため、相手に噛みつくことで、表現することがあります。
子ども同士の噛みつきだからといって、油断してはいけません。適切に対処をしないと、噛み跡が残ったり、傷口からばい菌が入ったりすることがあります。
出血や腫れがひどい場合は、病院を受診することも視野にいれておきます。冷やしたあとも注意して様子を診ておきましょう。
ひっかき傷
流水できれいに流したあと、保冷剤などで十分に冷やす。
噛みつきの場合と同様、ひっかき傷は、傷口から、爪に付着している菌が入る危険性があります。経過観察の方法も同様です。
鼻血
1.しっかりと鼻をつまむ
両方の鼻をつまむ方がより効果的です。ですが、低年齢児(2歳以下)は息苦しくなる可能性があるため、鼻血がでている方の鼻のみでも問題ないです。
2.下の方に顔が向くようにして座らせる
上を向かせるのはNGです。上を向くと、鼻血が鼻の中にたまらず、なかなか止まりません。また、喉に流れ込んだ血を飲んでしまうことで吐き気をもよおす可能性があります。
3.目と目の間の額を冷やす
鼻血が出る原因は様々にありますが、上記のように適切に対処をすれば、おおよそ5分程で止まります。10分以上処置を行っても止まらない場合は、病院を受診するようにしましょう。
重症につながる危険性のある場合
続いて、重症につながる可能性が高い緊急事態を紹介します。
基本的に、これから紹介するような状況の場合は119番通報をします。救急隊が到着するまでの、“応急処置”であると考えておいてください。
「救急車を呼ぶほどかな…?」と迷うくらいなら、呼んでおいた方が安心です。
では、それぞれの症状と応急処置方法を紹介します。
熱中症
夏に注意が必要な熱中症。熱中症を防ぐためには、こまめに水分補給をすることと、長時間の直射日光を避けることが重要です。
熱中症は適切な対処をしないままでいると、命にかかわります。重症度別に、適切な知識と応急処置方法を身に付けましょう。
重症度Ⅰ
主な症状
- 大量の汗
- 皮膚が冷たい
- 顔色蒼白
- 手足がしびれる、痙攣
- めまい、立ちくらみ
- 嘔吐
- 腹痛
- ぼーっとしている
- 意識あり
対応
1.涼しい場所で、衣類を緩め、頭を低くした状態で寝かせる
2.うちわなどで仰ぐ(扇風機があれば併用する)
3.塩分、糖分が含まれた飲料をこまめに少しずつ飲ませる
スポーツドリンクに塩を足したもの、生理食塩水(0.9%食塩水)など、濃いめの食塩水を補給する
重症度Ⅱ
主な症状
- 汗をかいている
- 顔色蒼白
- 呼吸が早い
- 嘔吐
- 頭痛
- 倦怠感
- 脈がゆっくり
- 筋肉の痙攣
- 脱力感
- 興奮状態
- 意識状態が悪い
対応
1.保冷剤などで積極的に体を冷やす
冷やす箇所:太ももの付け根、脇の下、首筋、足首(太い血管が通っている箇所)
2.病院受診の準備を行う
3.塩分、糖分が含まれた飲料をこまめに少しずつ飲ませる
意識障害があったり、吐き気を訴えたりする場合は、無理に飲ませないようにしましょう。水分が誤って気道に流れ込む可能性があります。
重症度Ⅲ
主な症状
- 意識がない
- 汗をかいていない
- 皮膚が赤い
- 体温40℃以上
- 体が熱い
- 皮膚の乾燥
- 脈がゆっくり
- 嘔吐
- 下痢
- 痙攣
- まっすぐ歩けない
対応
1.速やかに119番通報
2.救急車が到着するまでの間、重症度Ⅰ・Ⅱで紹介した応急処置を行う
頭部強打
強く頭を打ったあと以下の症状がある場合は、速やかに救急車を要請。
「これぐらいなら大丈夫かな?」と自己判断をしないことが重要です。救急車の要請については、『東京都福祉保健局 東京都子ども医療ガイド』内でも書かれています。
救急車を呼ぶ必要がある症状
- 意識がない(短時間でも)
- 痙攣
- 顔面蒼白
- 嘔吐を繰り返す
- 激しい頭痛
- 大泉門(頭の骨がまだくっついていない部分のへこみ)が膨らんでいる
- 理由なく機嫌が悪い
強打後の観察ポイント
- ぼんやりしている
- 放っておくと眠ってしまう、起こしても起きない
- 頭痛が続く
- 嘔吐を繰り返す
- 痙攣
- 手足のしびれ
- 視力の低下
- 発熱
- 不機嫌、イライラ
- ショック症状がみられる(血圧低下、皮膚蒼白、頻脈、徐脈、口渇、冷汗、呼吸異常、体温低下、意識障害など)
救急車を要請しなかった場合でも、上記の症状がみられる場合は、速やかに病院を受診する
腹部強打
頭部強打の場合と同様、見た目で「大丈夫。」と判断するのは危険です。腹部を強打した場合、臓器を傷つけている可能性があります。
子どもはその痛さを的確に言葉で伝えることが難しいため、注意が必要です。
打後の観察ポイント
- 腹痛
- 腰痛
- 血尿
- 嘔吐
- 顔色蒼白
- 呼吸困難
- 血圧低下
- ショック症状がみられる(血圧低下、皮膚蒼白、頻脈、徐脈、口渇、冷汗、呼吸異常、体温低下、意識障害など)
- 腹膜刺激症状の明らかな場合
救急車を要請しなかった場合でも、上記の症状がみられる場合は、速やかに病院を受診する
対応
1.膝を立てる姿勢で寝かせ、衣服を緩める
2.嘔吐がある場合は、身体を横に向けて嘔吐物による窒息を防ぐ
熱性けいれん
熱性けいれんは、通常生後6か月から5歳ぐらいまでの子どもによく見られ、おおよそ38℃以上の発熱に伴って起こります。
下記【救急車を呼ぶ必要がある症状】に一つでも該当する場合は、速やかに救急車を要請しましょう。
対応
1.衣類を緩め、嘔吐物で気道を塞がないように体と顔が横を向くようにして寝かせる
口の中にものを入れる、薬や飲み物を飲ませる、ゆする、押さえつけるなどはNG
2.けいれんの様子の観察・記録
【けいれん時の観察ポイント】参照
3-1.5分以内に痙攣が収まり意識が回復すれば、救急車を呼ぶ緊急性はないが、できるだけ早くその日中に病院を受診
3-2.意識が戻らず、呼吸が確認できない場合は心肺蘇生を実施 → 救急隊に状況を引き継ぐ
けいれん時の観察ポイント
- けいれんが始まった時間(どれくらい続いているのか)
- 左右対称であるか
- 眼球が上転していないか
- チアノーゼはないか(チアノーゼ:唇や指先が青紫色に変化し、明らかに顔色が悪い状態)
救急車を呼ぶ必要がある症状
- 5分以上けいれんが続く
- 左右対称でない
- チアノーゼが引かない
- 2回目のけいれん
- 初めての発症
- 年少児(特に1歳未満)
誤飲・誤嚥
誤飲…食べ物ではないものを誤って飲み込んでしまうこと
誤嚥…食べ物・飲み物の飲み込みが上手くいかず、気管に入ってしまうこと
誤飲、誤嚥があった際は、速やかに救急車を要請。その後、状況に応じて下記の処置に移る。
意識がある時
- 胸部突き上げ法
- 背部叩打法
- 腹部突き上げ法(1歳以上~)
1.上記方法により異物除去を試みる
ビンやガラスの破片等や判断できない場合は、吐き出す際に臓器を傷つけてしまう可能性があります。無理に吐かせようとせず、救急隊に状況を説明します。
2.救急隊に引き継ぐ
意識がない時
意識がない、呼吸が確認できない場合は、速やかに心肺蘇生に移る
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーは、アレルギーを引き起こす食べ物、薬、ラテックスなどの物質を体内に取り入れることで発症します。
多くは、アレルゲンにさらされてから数分~30分以内に症状を発症しますが、数時間後に発症するケースもあります。
重症な場合は、数分のうちに重篤な症状が現れ、命を脅かすこともあります。正しい知識を身に付け、適切な対応ができるようにしましょう。
主な症状
- 皮膚(じんましん・かゆみ・赤み)
- 顔・唇・目のむくみ
- 口のしびれ
- 呼吸器(息切れ・せき・ぜんそく)
- 粘膜(唇・舌・口内の腫れ)
- 消火器(腹痛・嘔吐)
- 意識がもうろうとする
- 血圧の低下・意識障害
複数の症状が同時に現れることが多い
対応
1.上記の症状が強く出ている場合は速やかに救急車を要請
症状が軽い場合は、安静にして経過観察
2.衣服を緩めて横になり、下肢(足)を持ち上げる体制で安静にする
3.意識がある場合、内服薬(抗ヒスタミン剤)を内服する(携帯している場合)
4.アドレナリン自己注射(エピペン)をうつ(携帯している場合)
5.意識がない、呼吸が確認できない場合は心肺蘇生にうつる
6.救急隊に状況を引き継ぐ
応急処置の仕方
心肺蘇生(CPR)・AED
様々な状況の緊急時対応を紹介しましたが、意識・呼吸が確認できない場合は、心肺蘇生が最優先です。
救急隊が到着するまで、命を繋ぎとめるために正しい知識を身に付けましょう。
対応
1.大きな声をかけ、肩を軽くたたき、反応(意識)の有無を確認
2.傷病者の腹部と胸部の動きを10秒観察し、呼吸を確認
3.普段通りの呼吸がない場合は、下記動画に従って、心肺蘇生・AED使用により、一時救命処置を実施
乳児の場合
小児の場合
窒息時の応急処置
乳幼児の場合、口の中に指を入れて取り除こうとすることはNGです。かえって、異物を喉の奥に押し込んでしまう危険性があります。
また、乳児と小児では体勢が異なるため、どちらの場合でも適切に対応ができるようにしておく必要があります。
背部叩打法
乳児の場合
小児の場合
【腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)】
乳児の場合
小児の場合
エピペンの使い方
エピペンとは
アナフィラキシーがあらわれたときに使用。医師の治療を受けるまでの間、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤(アドレナリン自己注射薬)です。
エピペンの保存方法
- 携帯用ケースに入れて保存・携帯する
- 15℃~30℃での保存が望ましい(30℃を越えた場所に放置されたものは使用しない)
- 幼児の手の届かないところに保存する
エピペンの使い方
救急安心センター『♯7119』
緊急安心センター『♯7119』とは、緊急時に専門家からアドバイスを受けることができる電話相談窓口。電話口で、医師、看護師、相談員が状況を聞いたうえで、救急車要請の必要性、受診の必要性、受診できる医療機関などを案内してくれます。
ここまで様々な応急処置の方法や、救急車要請の目安について紹介してきました。ですが、状況によっては、対応方法が分からなかったり、「救急車を呼ぶほどかな…?」と迷ったりすることがあると思います。
その際は、救急安心センター『♯7119』に電話をかけてみてください。自動音声により次の二つの項目のいずれかを選択します。
①緊急電話相談 → 医師、看護師、相談員が対応 → 緊急性によって対応を判断
②医療機関案内 → 受信可能な医療機関を案内
119番通報を躊躇う場合は、まず救急安心センター『♯7119』に電話をかけましょう。
【まとめ】
様々な緊急時対応、応急処置について紹介しました。
実際に子どもが痛がったり、苦しんだりしている姿を目の当たりにすると、冷静でいられないことが多いと思います。
ですが、その目の前の子どもを助けられるのは、あなたしかいません。どのような状況であっても、冷静に判断し、適切な対応ができるよう、最低限の知識は身に付けておきましょう。知識がないままでは、ただ見守ることしかできません。
保育園で勤務している保育士の皆さんは、最低でも月1回は緊急時対応訓練を実施し、振り返りを行いましょう。毎月同じ内容ではなく、様々なシチュエーションを想定して実施することが望ましいです。また、定期的な園の緊急時対応マニュアルの確認、改訂も必須です。
今回、身に付けた知識を使う時が来ないことが、もちろん望ましいです。ですが、万が一が起きてしまってから後悔しても遅いです。
後悔しないために。大切な子どもたちの命を守れるように、知識を身に付けておきましょう。
一人でも多くの子どもたちが、笑顔で元気に過ごせることを、心から願っています。
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