昨今、食事中の窒息事故について、多くの悲しいニュースを目にします。
中でも、大きく取り上げられたりんご誤嚥事故のニュースは、みなさんもまだ記憶に新しいのではないでしょうか。
りんごを食べた保育園児が相次ぎ意識不明に 窒息事故の怖さとは | NHK | WEB特集 | 事故
こんにちは。元保育士のKanaです。
離乳食はおおよそ、生後6か月ごろから始まります。少しずつ、様々な食材を試していく中で、五感を使って、食事の楽しさを知っていく時期です。ですが、乳幼児は咀嚼・嚥下機能が未熟。
食事中の悲しい事故を繰り返さないため、嚥下・咀嚼機能が未熟な時期は、大人が十分に注意する必要があります。
この記事では、注意が必要な食材や、食事中の注意ポイントについてまとめました。子どもたちが、安全に、楽しんで食事ができるよう、適切な知識を身に付けていきましょう。
誤嚥について
誤嚥とは
はじめに、「誤飲」と「誤嚥」のそれぞれの言葉の意味は理解できていますでしょうか。
実際に私も、保育士として働くまでは、あまり違いが分かっていませんでした。それぞれの正しい言葉の意味は、以下の通りです。
「誤飲」:本来、飲み込まないものを間違えて飲み込んでしまうこと ex)玩具、電池など
「誤嚥」:食道に入るべき食品や唾液などが、誤って気道に入ってしまうこと
「誤飲」と「誤嚥」の違いは理解いただけたでしょうか。このことから、食事中に発生する窒息事故は「誤嚥」が主な原因となります。
歯と咀嚼について
次に、誤嚥の危険性を理解するうえで、簡単に歯と咀嚼について説明します。
咀嚼機能の発達には、歯の生える時期が深くかかわっています。
1歳になるころには、奥歯が生える前段階として歯茎が膨張し、奥の歯茎で食べ物をつぶすことができるようになります。歯茎で食べ物をつぶすためには、舌と顎の連動が必要となり、咀嚼の基本的な動きが獲得され始めます。
歯茎でつぶせるようになると、やや固さのあるものも食べられるようになります。乳前歯が上下4本ずつ生えそろうと、おおよそ噛み切ることが可能になります。
1歳8か月ごろには、上下の第一乳臼歯が生えそろいます。嚙み合わせができあがり、噛みつぶしも上達しますが、未熟です。その後、第二乳臼歯が生え始め、2歳半を過ぎるころには上下が噛み合い、咀嚼力が増大します。
そのため、第二臼歯が生えそろう前の、0.1歳児クラスと2歳児~5歳児クラスを区別して、給食を提供することが望ましいのです。
では、次の章から、誤嚥・窒息につながりやすい食材について紹介していきます。
誤嚥・窒息につながりやすい食材
注意すべき食べ物の形状や性質
前提として、どのような食べ物でも、誤嚥、窒息の危険性があるということは、常に念頭に置いておいてください。
また、その日の体調や機嫌の良し悪しでも、咀嚼、嚥下機能に影響があります。
上記の内容を念頭に置いた上で、特に誤嚥、窒息につながりやすい食材を紹介します。
大きさの目安:球形の場合は直径4.5㎝以下、球形でないものは直径3.8㎝以下の食材が、危険とされている
しかし、あくまで目安であり、成長発達によって個人差があります。大きさが1㎝程度のものでも、十分に食材をすりつぶすことが難しい場合は、注意が必要です。
以下、実際どのような食材に注意が必要かを、具体的に紹介します。
弾力のあるもの
こんにゃく、きのこ、練製品、マシュマロ、ゼリー など
なめらかなもの
熟れた柿やメロン、油分のある豆類(ピーナッツなど) など
球状のもの
プチトマト、乾いた豆類、枝豆、飴、ぶどう、キシリトールタブレット など
粘着性の高いもの
餅、白玉団子、ごはん など
奥歯を使わないと噛みつぶせないような硬いもの
奥歯が生えそろう3歳過ぎまでは、与えないことが望ましい
かたまり肉、えび、いか、おせんべい など
唾液を吸うもの
調理において、下記のように食材に合わせた工夫が必要
- 片栗粉でとろみをつける
- 細かくつぶし、他の食材と混ぜる
- 味を染み込ませ、柔らかくなるまでしっかりと煮込む
鶏ひき肉のそぼろ煮、パン、ゆで卵、さつまいも、煮魚 など
口の中でバラバラになりやすいもの
ブロッコリー、ひき肉 など
誤嚥すると重症化しやすいもの
飲み込む力が未発達な、5歳ごろまでは与えないことが望ましい
ピーナッツ など
果物
りんご、梨 など
りんご・・・塊の固さ、切り方によっては喉につまりやすい。離乳食完了期に進むまでは加熱して提供することが望ましい。
りんごを食べた保育園児が相次ぎ意識不明に 窒息事故の怖さとは | NHK | WEB特集 | 事故
持参お弁当での使用を避ける食材
給食では、以下のような、誤嚥の可能性が高い食材は、あらかじめ使用を制限している園が多いと思います。もし使用している場合は、十分に注意が必要です。
一方で、保育園や幼稚園によっては、お弁当を持参することがあると思います。その際、使用を避ける方が望ましい食材を、理由を併せて紹介します。
球体のもの
吸い込みにより、気道をふさぐ危険性
プチトマト、豆類、枝豆、うずらの卵、あめ類、球場の固形チーズ、ぶどう、さくらんぼ など
→使用する場合は、4等分するなどして球体でない状態にする。
粘着性が高いもの
噛む前に、誤嚥してしまう危険性
もち、白玉だんご など
固すぎるもの
嚙み切れずに、そのまま気道に入る危険性
いか、たこ など
噛みちぎりにくいもの
嚙みちぎれずに、そのまま気道に入る危険性
えび、貝類、おにぎりの焼きのり など
→おにぎりの焼きのりに関しては、きざみのり等で代用
食事介助時に配慮が必要な食材
粘着性が高く、唾液を吸収して飲み込みづらいもの
白米、パン類、ふかし芋、カステラ など
食事提供時の注意点
注意すべき食材が理解できたところで、次に食事中の注意点について解説をしていきます。
乳幼児期は、食べ方を育てる時期となります。また、五感を育て、咀嚼習慣を育成する大事な時期でもあります。
成長発達にともない、子どもたち自身が安全な「食べ方」を身に付けていくことができるよう見守ることが重要です。
食べることが楽しい!と感じられるように、安全な環境を整えましょう。
姿勢
5~6か月
離乳食が始まり、まずは摂食・嚥下に慣れていく時期です。
子どもの発育・発達には個人差があるため、子どもの様子を日々観察しながら、離乳食を進めていき、食べる姿勢に配慮していく必要があります。
姿勢のポイント:口を開けた時に、舌が床に平行程度の頸部の角度であること
7~8か月
床に足がつかない場合は、台を準備するなどして、正しい姿勢で座れるように工夫しましょう。
姿勢のポイント:深く座り、足の裏が床につく高さであること
食事中
食事提供前の確認ポイント
- 食べ方の特徴を理解しているか
- 介助をする大人の位置から、子どもの表情が十分に確認できるか
- 成長発達の個人差に合った大きさになっているか
- 食べることに集中できる環境であるか
食事介助中の確認・注意ポイント
- 正しい姿勢を保っているか
- お茶や汁物などで、十分に水分がとれているか
- 遊びながら、歩きながら、寝転びながら食べていないか
- 詰め込みすぎていないか
- 眠くなっていないか
- 口の中に食べ物があるときは、話をしない、話しかけない
- 驚くようなことはしない
- 「かみかみごっくん」など声をかけたり、やって見せたりしながら、よく噛んで飲み込めるよう促す
- 食事の際兄姉がいる場合、乳幼児にとって危険な食材や未食のものを与えないように注意する
緊急時対応フロー
緊急時対応フローについて
乳幼児(とくに乳児)は、調子よく食事が進んでいたとしても、突然のどに詰まらせてしまうことがあります。
「これくらいなら詰め込んでも問題ないだろう。」「今日はよく食べるから安心。」などと、勝手な判断によって、気を緩めないようすることが、なにより重要です。
食事中、食事後は、いつもと違う様子がないか、常に注意して観察するようにしてください。
また、保育園では給食後、そのまま午睡に入ることが多いと思います。口に何か入っていたり、喉に詰まらせていたりする状態で入眠すると、取り返しのつかない事故に繋がります。
小さい子どもの場合、咳で吐き出す力が弱いため、自分で気管に入ったものを吐き出すことが難しい場合が多いです。
誤嚥の疑いがある症状:食事を飲み込んだあとにむせる、「ぜーぜー」するなど呼吸がしづらい様子が見られる など
万が一、誤嚥が疑われる様子があれば、救急車を要請を優先します。
なぜなら・・・
- 意識・呼吸が確認できなくなってからの要請では、間に合わない可能性があるため
- 応急処置により異物が出てきた場合でも、内臓を傷つけてしまっている可能性があるため
救急隊が到着した際に、どのような応急処置をしたのか、漏れなく伝えるようにしましょう。
以下、意識・呼吸がある場合と意識・呼吸が確認できない場合、それぞれの応急処置の流れを説明します。
意識がある場合(咳き込む、苦しそうに泣く、言葉で苦しさを伝えられる、呼吸が苦しそう、呼吸困難などの姿が見られる)
1.本人の咳き込みにまかせ、背中を軽くたたいたり、さすったりする(年齢・状況に応じて、それぞれの叩打法を実施する)
2.異物が出たら、体を横向きにして口の中を確認する
3.安静にして経過観察をする
4.救急隊に状況を説明し引き渡す
※逆に異物を押し込む可能性があるため、口に指を入れてとろうとする行為はNG!
※それぞれの叩打法について、【もう慌てない!子どもの緊急時の適切な対応紹介】にて、詳細を紹介しています。
意識・呼吸がない場合(呼びかけに反応しない、チアノーゼなどの姿が見られる)
1.意識・呼吸がないことを確認する
2.心肺蘇生法を実施
3.救急隊が到着するまで、AEDガイダンスに従って、胸骨圧迫・AEDショックを繰り返す
4.呼吸が確認できるようになったら、安静の態勢をとる
5.救急隊に状況を説明し引き渡す
※人口呼吸は、適切に空気が入らなくても2回までとする(人口呼吸により、異物をさらに奥に押し込んでしまう危険性があるため)
※心肺蘇生法について、【もう慌てない!子どもの緊急時の適切な対応紹介】にて、詳細を紹介しています。
まとめ
誤嚥しやすい食材や、食事中の注意点について紹介しました。
繰り返しになりますが、普段問題なく食べている食材でも、窒息につながる可能性は十分にあります。
月齢や年齢に関わらず、その日の体調や機嫌の良し悪しでも、咀嚼、嚥下機能に影響があります。
子どもの咀嚼、嚥下機能、成長発達を把握することもちろんですが、その日の体調にも注意して、園内で共有し合うようにしましょう。
保育園では、保育士一人に対し、数人の子どもたちを相手に、食事介助をすることがあります。常に「これで大丈夫かな?」と危機管理意識を持ち、事故が起こる可能性について想像力を働かせて、食事介助をするようにしてください。
また、時には、担任ではない保育士が介助に入る場合があると思います。事前情報がないまま、食事介助を任せることは大変危険です。とくに注意して、ひとりひとりの特徴を共有したうえで、任せるようにしてください。
子どもたちが、食事の楽しさに気付き、安全に食事ができること、食事中の窒息事故が0になることを、心から願っています。
コメント